· 

『待機所』編集後記

短編ボイスドラマとして、『待機所』というボイスドラマを制作しました。

ここではその編集後記を書いていきます。

 

※作品のネタバレを含みますので、作品を聞いていただいてから読んで下さい。

 

●脚本について

 

この作品は、6月末のある日、とある悲しいニュースに出会ったことから始まりました。

何度も何度もニュースで報道された、幼い子どもが亡くなった事件です。 

これまでにも、子どもの虐待については色んな事件がありました。

最悪な状況にまで至ってしまった案件、何とかその前に助け出された案件、さまざまな事案があります。

もちろんその家庭にはその家庭の事情があるし、部外者が勝手に推測するのもどうかと思いますが、それでも、幼い子ども達が犠牲になっているという事実は変わらなくて。

親、周囲の環境、生い立ち、社会の仕組み、色んな原因があるでしょう。

でも何が原因であれ、最終的に子ども達が辛い思いをしているのは変わらない。

そう考えると本当にやるせなくて、ニュースを見ながら泣いてしまいました。

――気づけば、PCの前に座ってキーボードを打っていました。

そうして数十分で書き上がったのが、このお話です。

 

次に、台詞が表すことや意味について解説しておきます。

なお、私の個人的な意見や主張が入りますので、ご注意下さい。

 

○子ども1「私、産んでもらえないかもしれない。これ持ってるから。」

子ども3「そんなの、お母さんにはわかんないじゃん。」

子ども1「最近は、わかるんだって。それで、産んでもらえないことがあるんだって。」

先天性障害と出生前診断のことです。

出生前診断とは、超音波検査や染色体情報をもとに、生まれる前に胎児の先天性疾患を判定する検査のことです。

 

出生前診断の目的は、基本的には「胎児の状態を知り、準備すること」です。

ですが、陽性と判断された方の9割は中絶を選択するというデータもあり、「命の選別」であると問題視する声もあるそうです。

子ども1は、何らかの先天性障害を抱えている設定でした。

 

○子ども3「子どもはずっとほしいみたいだよ。なかなか呼ばれないんだけど。」

不妊治療のことです。

望まない妊娠をしたり、虐待で亡くなったり、辛い思いをする子ども達がいる一方で、子どもがほしいと切望する人がいます。

この春からやっと保険適用になりましたが、時間、お金、職場の理解、不妊治療の問題は色々あります。

どうしても自分の子どもが欲しくて、何十万、何百万というお金をかけても授からず、夫婦2人で暮らすことを選択された方もいます。

授からなかったことで次のステップをと、養子縁組、特別養子縁組の選択をする人もいます。

これについては少し後で書きます。

 

○子ども4「ただいま。…私じゃだめだったみたい。」

児童虐待のことです。

親からの虐待が原因で亡くなり、この待機所に帰ってきたのが子ども4です。

「かみさまがね、もう帰っておいでって、助けてくれた」

現実の私たち大人がその子を救えなかった場合、別の方法で救うのが神様ではないかと思い、こういう台詞にしました。

 

仏教には「賽の河原」というエピソードがあります。

親よりも先に亡くなった子供は重い罪があるとされ、冥土の三途の河原で父母供養のために石を拾って積み上げ、石塔を作ることを強いられます。

そして、完成する直前に鬼が来て、苦労して積んだ石塔を崩してしまうという話です。

しかし、不慮の事故ややむを得ない事情で命を落とした子ども達の前には地蔵菩薩様が現れて、子ども達を救ってくれ、無事に成仏させてくれるというエピソードです(諸説あります)。

全国にある水子供養の寺院には、絵馬が供えられていることが多いです。

いつか行った寺院で、ふと気になって絵馬を見た私は、そこに書かれた悲痛な叫びや謝罪の言葉に、辛くて泣いてしまった覚えがあります。

原因があるもの、原因がないもの、色々あるでしょうが、母親達は一様に、自分より先に旅立ってしまった我が子の冥福を祈っておられました。

同時に、今生きている自分の命は、数え切れない奇跡の上に成り立っていると言うことを強く感じます。

一瞬一瞬を、大事にせねばなと思いました。

 

○子ども4「あの子はびょうきだったみたいだよ。」

子どもの病気のことです。

無事に産まれても、何らかの疾患を抱え、幼くして亡くなってしまう子どもたちもたくさんいます。

懸命に1日1日を生き、戦う子ども達と両親の闘病記に触れたことがきっかけで、入れています。

 

○子ども4「…あ、いいなぁ、あの子。新しい家にもらわれていった。」

これは養子縁組のことです。

育てられない家庭だったり、虐待を受けたり、様々な事情で保護され、新しい家庭を夢見る子ども達もたくさんいます。

 

先日特別養子縁組をテーマにした映画『朝が来る』を観たことがきっかけで興味を持ち、様々なことを知りました。

特別養子縁組や養子縁組は今は「不妊治療を諦めた人が考えるもの」というイメージがありますが、個人的にはもう少しハードル(条件)を下げて、もっとたくさんの子ども達が新しい家庭に旅立てたらいいのにな、と思います。

ですが、もちろん子どものことが最優先であるため、確実に任せられる家庭に預けたい、と条件が厳しくなるのも頷けるため、難しい問題だなとつくづく思います。

 

○子ども3「見て、あそこは、お母さんが2人だって。」

これは新しい家族の形の話です。

先日テレビで、それぞれ精子提供で1人ずつ子どもを産み、4人家族で暮らしている女性カップルさんのお話を聞きました。

日本ではまだ同性婚は認められていませんが、同性カップルさん(もちろん男性カップルも)で子どもを育てたいと思っている、そして育てられる能力と経済力がある方はたくさんいると思います。

これも先ほどあげた養子縁組のテーマに繋がりますが、子どもの未来を考えるなら、ここが繋がってもいいんじゃないかというのが個人的な意見です。

 

脚本の解説については以上です。

こうして書いてみると、子どもの問題というのは本当に多岐にわたると思います。

ただ医療、福祉、保育など、本当に色んな面でのサポートが必要なため、私たち大人が連携して支えていくべきです。

子ども達は、真っ白な状態で産まれてきます。

今回書いた待機所のような場所で、わくわくしながら、不安になりながら、待っていたかもしれません。

その子達が産まれたいと思える社会を、私たちは作っていられているだろうか。

そんなことを、考えたりしたのでした。

 

●キャストさんについて

 

 今回は募集ツイートにご反応下さった方から選考させて頂きました。

全編を通し繊細な感情表現で雰囲気を作って下さった、子ども1役の板チョコレートさん。

唯一の男の子設定で、微妙なリアクションもして下さった、子ども2役のみけらんさん。

儚げで、どことなく悟ったような雰囲気を見事に出して下さった、子ども3役のちそらさん。

後半に登場し、役が背負う背景を少ない台詞で存分に表現して下さった、子ども4役のゆゆさん。

 

実はこひらとしては初めてご一緒するキャストさんばかりで、ちょっと緊張もしたのですが、とても楽しく作れました。

最初に雰囲気の説明というか、作りたい作品のニュアンスをお伝えさせて頂いたのですが、もう4名とも申し合わせたようにそのニュアンスにばっちりはめてくださり、大興奮でした。

本当にありがとうございました。

 

●編集について

 

 台詞と演技を中心にした作品にしたかったため、今回はSEもBGMも必要最低限にしています。

そもそもこの子ども達に実体があるかもわからないため、足音などの音も入れていません。

こひらとしては珍しい作りになっていますが、その分台詞や演技が際立つ編集になったかなと思っています。

 

 

●最後に

 

 突発的に作ったボイスドラマでしたが、自分の言いたいことや表現したいことを詰め込んだ、濃厚な5分半になりました。

このボイスドラマを聞いて下さった方が、少しでも子ども達の問題について何か考えるきっかけになれば嬉しいです。

 

長文お読み下さりありがとうございました。