このたび、リスナーさんが特別養護老人ホームの入居者さん目線で聞けるシチュエーションボイスドラマ『あなたが眠る家』を公開させて頂きました。
ここではこの作品の裏話を書いていきます。
●制作のきっかけ
このボイスドラマを作るきっかけになったのは、『JOKERS』からご縁が繋がり何やかんやずっとお世話になっているおーたむさんとのTwitterでのやりとりでした。
おーたむさんが「シチュエーションボイスというものを初めて知った…」とツイートされていて、それに関してお話していたのですが。(以下うろ覚え)
私「私シチュボの台本は書ける気がしないですね、一人台詞が書けない」
お「コンセプトとしてはボイスドラマとむしろ真逆なのでは。」
私「私が書くとしたら多分『事故の後遺症で話せなくなった聞き手とヘルパーの話』とか激重のやつになりそうです」
お「それはもはやボイスドラマなんよ」
こういうやりとりがあって、当時アイデアを練っていた介護施設でのお話を一部使い、ふくらましていったのがこの作品です。
●脚本について
元々私が大学卒業後ずっと介護施設で働いてきた(施設内の事務職だった期間もありますが)こともあり、介護施設を舞台にしたボイスドラマは作ろうと思っていました。
そこでまずは短編をと思い、『ただいま介護中』シリーズを作りました。
たくさんのご感想をいただき、やっぱり長編も書きたいと思って色々書いていたのですが、如何せん自分が現場を知っている以上、細かく書きすぎてしまっていました。
でもシチュエーションボイスドラマという設定にしたおかげで、省けるところは省いて、大分スッキリわかりやすく書けたと思っています。
特に気をつけたのは聞き手である月岡さんへの呼びかけ、距離感です。
「お客さま」というほど大げさじゃ無い、「家族」ほど近くない、隣にそっと寄り添うけれど常に敬い、尊厳を大事にする、そんな距離感を大事にして書きました。
作品内の出来事は、ほとんどが職場で今まで経験したことや見聞きしたことを少し盛ったものです。
当時のことを思い出しながら書きました。
ちなみに月岡さんのご家族は聞いてみると冷たい印象をお持ちの方が多いと思いますが、ご家族さんにも色んな方がいらっしゃいます。
熱心過ぎてモンスター化している方、音信不通な方、連絡すると面倒くさそうに対応される方、様々です。
でも、ご家族にも色々ご事情がある場合があります。
誰もがみんな実親と仲が良く、「本当は家でみたいんだけど私たちには無理だから、申し訳ないけど施設に入ってもらう」という訳にはいきません。
親らしいことなんて何1つしてくれなかった、なのに体調が悪くなって今更面倒をみろ、施設を探せ、介護サービスを使えだと?
という方もいらっしゃいます。
関係のあるキャストさんにはお伝えしていましたが、月岡さんにも色々あったという裏設定があります。
脚本を書き上げた後には、医療従事者の永マツリさん、介護職経験者の軽田さんに読んでもらい、おかしい所が無いか確認してもらいました。
きっかけをくれたおーたむさんもキャストさんに呼び込むことにし、そんなこんなで、脚本が出来上がりました。
●キャストについて
登場人物には、実は全員モデルがいます。
実際に働く中での後輩や先輩を、ちょーっとイメージしています。
もちろん大分変えていますけどね。
選考の結果、素敵なキャストさんにお集まり頂きました。
木原翠役 望月なつさん
繊細でかわいくて初々しくて、何とも応援したくなる翠ちゃんを演じて下さいました。
この作品の聞き所の1つは「自分は老いていくけど、反対に木原さんは成長していく」という所だと思っています。
最初のたどたどしい感じから、慣れていくシーン、急変で慌てるシーン、現実を知って乗り越えていくシーン、どれもに心動かされます。
車いすで段差が上がれないシーンの演技も好きです。笑
編集しながらちょっとうるうるきてしまうこともありました。
人の声の力ってすごいなぁと思います…。
中野明彦役 大森ショージさん
選考音源を頂いた瞬間に鳥肌がたったことをよく覚えております。
採用のご連絡をさせて頂いた時に思わず「あの…介護施設経験者の方ですか?」と聞いてしまいました。
聞く人を唸らせるリアルな演技と距離感と息づかい。
早々に全音源を頂けたので、この演技に合わせてほしいと思って他キャストさんには共有させて頂きました。
物語の中でも演技でも、リーダーとして引っ張っていって下さって感謝です。
池谷夏子役 水沢とおるさん
最近水沢さんのリアルな演技が好き過ぎて色んな作品に出てもらってるのですが、今回もさすが水沢さんという感じで好きです。
いやあの、やっぱり、介護施設でのご経験ございます…?
こういう元気なちょっと中年の介護職員さんよくいらっしゃって、その場にいるだけで空気が明るくなるんですよね。
本当にそんな感じで、素敵でした。
杉谷明美役 永マツリさん
マツリさんは脚本を確認してもらったりアドバイスを頂いたこともあり、協力者という形でキャストに入ってもらいました。
元々声がめちゃくちゃお綺麗なので、クールビューティー杉谷さんに。
介助のシーンなどはさすが経験者さんという感じで、ナチュラルに演じて頂いてよかったです。
みんな本当に、あの施設に生きている…と思いました。
石田清二役 ミンクさん
スタッフの中で唯一現場ではない人間、でもご家族さんをユニットに送り届ける大事な役を演じて下さいました。
設定上、説明台詞が多くなっちゃったんですが、物腰柔らかにわかりやすく伝えて下さりありがたかったです。
きっとミンクさんの優しい声に誘われて、リスナーさんは月岡さんになれるんじゃないかと。
月岡誠役 おーたむさん
おーたむさんも協力者という形でキャストさんになってもらいました。
リアル系おーたむさんの演技を聞けて個人的にも楽しかったです。
亘さんも色々あった設定でしたので…。
「じゃあな、親父。また来るよ」とかの言い方が特に好きです。
月岡勝江役 加藤ねいさん
誠さんの夫であり、秀一さんからすると嫁である勝江さん。
一歩引いたような距離感がちょうどいいなと思ってお願いしました。
初めてご一緒する方だったので嬉しかったです。
月岡亘役 くれはさん
声幅も演技幅も広すぎるくれはさん、ちょっとぶっきらぼうな亘さんにビシッとはまって下さいました。
相変わらず動きの見えるような演技が良いです。
くれはさんも出演作品は聞いていたけど初めてご一緒することになったので嬉しかったです。
●編集について
編集は必要最低限のSEとBGMと決め、やっていましたが結構細かくなりました。
BGMはピアノ中心で、優しく寄り添えるような編集を目指しました。
大変だったのはSEです!
動きをイメージして衣擦れ音をいーっぱい入れたり、効果音探しに奔走しました。
車いすを押す時の軋み音、車いすが外を通る時の音、血圧計のモーター音、体温計が鳴る音、心電図モニターの音、心電図モニターのアラーム音、などなど。
何とか全部見つかりました。
効果音フリー素材さん達には本当に感謝です。
月岡さんが最期を迎える時の編集は、当初BGMを入れてカットすることで臨終を表現しようと思っていたのですが、いざ編集するとすごく不自然で。
ここはSEと翠ちゃんの演技で充分、でもそれだけじゃ亡くなった感じが出ない。
ということで色々試行錯誤しましたがついにゲシュタルト崩壊した私。
何と夫を召喚し色々聞いてもらい、更に試行錯誤を重ねました。
私「えーどうやったら亡くなった感じ出るんやろ」
夫「死んだことないからなぁ」
私「そうやんねぇ…死ぬってどんな感じなんやろ…」
とふしぎな会話をしながら編集。
と、「最後の方だけちょっと曇らせる+響かせる」というアイデアを出してくれ、試してみるとちょっと良い感じに。
更に「もうちょっと前の方からそれ徐々にやってみたら」とアイデアをもらい、その通りにやってみたらあら不思議。いいじゃありませんか。
その後ベストなタイミングやエフェクトを探し、最終的にあの形になりました。
夫!!!ありがとう!!!
●最後に
皆さま、作品をお聞き下さりありがとうございました。
この長い編集後記もお読み下さりありがとうございました。
今どの立場でもない人へ。
人生は何が起きるか分かりません。
自分が、大切な人が、いつ要介護状態になるかはわかりません。
事故、事件、脳梗塞、ガン、認知症...
何かあれば、いつでも専門機関を頼ってくださいね。
ちなみにご高齢者で「介護サービスを受けたいな」と思ったら、まずは要介護認定が必要です。
お近くの役所や地域包括支援センターなどにご相談ください。
今家族側の人へ。
いつもお疲れ様です。
在宅介護されている方、施設に入居してもらった方、色々いらっしゃると思います。
介護サービスを使うことに罪悪感は抱かないでください。
無理はしなくていいです。
いつでも頼って下さいね。
利用者側の方へ。
あなたがどうか最期まで、生き生きと暮らせますように。
人生の下り坂を下りる時の、杖になれますように。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。